その全貌が明らかになった坂本龍一8年ぶりのオリジナルアルバム『async』。
みなさんはどのようにお聴きになりましたか?

ここではワタリウム美術館で開催中の『Ryuichi Sakamoto | async』展に来場された方々がアルバムについての思いを綴った「解読」と坂本龍一本人の言葉を残していく「返信」を更新していきます。

また、引き続き『async』発売前に公開していました 坂本龍一の足跡を辿る「予習」、多くの皆さんとニューアルバムを予測した「予想」もお楽しみください。

予習 『愛の悪魔(LOVE IS THE DEVIL)』(1999年作品)

 坂本龍一の転機ともなったアルバム『BTTB』とほぼ同時期に制作されたサウンドトラック・アルバム。英国の現代美術家の巨匠、フランシス・ベイコンと恋人との関係を描いた英国映画のサウンドトラックで、映画の邦題は『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』。
オーケストレーションを駆使したこれ以前のサウンドトラック作品とくらべて、ほぼピアノとアンビエント~ノイズのシンセサイザーのみで作られている。
 映画音楽処女作となった1983年の『戦場のメリークリスマス』と同様、音楽については監督であるジョン・メイブリーからなにも注文がなかったという(唯一、最後に叙情的なピアノ曲を一曲入れて欲しいというリクエストのみあった)。そうすると当然、作品はそのときのアーティスト個人の趣向や興味を反映したものになる。
 坂本龍一は制作中から、この作品は自分のソロ・アルバムなのではないか。ソロとして発表してもよいのではないかと自問していたそうだ。それほど思い入れの強い作品だけに、坂本龍一は本作のアナログ化を強く望み、2010年には自身のレーベルであるcommmonsからCDとともにアナログ盤のリイシューもしている。
 長年に渡って坂本龍一の愛着のある作品となっている本作もまた、最新アルバムの予習にぴったりの一枚かもしれない。

(執筆:吉村栄一)