その全貌が明らかになった坂本龍一8年ぶりのオリジナルアルバム『async』。
みなさんはどのようにお聴きになりましたか?

ここではワタリウム美術館で開催中の『Ryuichi Sakamoto | async』展に来場された方々がアルバムについての思いを綴った「解読」と坂本龍一本人の言葉を残していく「返信」を更新していきます。

また、引き続き『async』発売前に公開していました 坂本龍一の足跡を辿る「予習」、多くの皆さんとニューアルバムを予測した「予想」もお楽しみください。

予習 『千のナイフ』(1978年作品)

 小説家の場合、「処女作にそのすべてがある」と言われるが、音楽家も実はそうなのかもしれない、という観点で、この坂本龍一の初のソロ・アルバム『千のナイフ』は、新作の予習にマストな一枚だろう。
 スタジオ・ミュージシャンとして多忙を極めるなか、このままではいけないと奮起して半ば強引に時間を作って制作した一枚。誰の指示も受けずに、思惑も気にせずに自由に、やりたいことだけをやった作品という意味では、実は近年の坂本龍一のソロ作品と同じ精神のもとに成り立っているのかもしれない。
 売り上げなどの商業的な観点を一切抜きに作ったため、発売当時の売上枚数はわずか200枚だった『千のナイフ』だったが(2016年リマスターCDのブックレット参照)、その後から評価は急上昇し、現在では坂本龍一の原点の作品として不動の一枚となった。売上枚数はともかく、最新のソロ・アルバムもまた、坂本龍一の歴史の上で重要な一枚となっていくことはまちがいないだろう。

(執筆:吉村栄一)